町街さがし
Vol.01「曳舟」
住みやすい街ランキングなんてものとは無縁な街が好きだ。
それは単に歴史あるとか情緒あるとかそういうものでもない。単に街の名前の響きが良いとかそういった簡単な理由からくる場合もある。
「ひきふね」。凄く良い響きだ。
曳舟駅で降りたのは初めてかもしれない。まったくもって用事のない駅と言ってしまったらそれまでだが、自分には今まで無縁だったのかも知れない。きっとそういったモノやコトの方が人生の中で多いのだろう。でも今日はようやく縁あってこの駅を降りてみた。
改札を抜けると、なんてことのない綺麗な今っぽいコンコースが続いていた。一つ驚いたのは駅と隣接して病院があることだ。高齢化社会ってやつが静かにそして確実に近づいてきていることを感じた。駅を出てすぐに嫌でも目にスカイツリーが入ってくる。これでもかってくらいソレは下町感を押し付けてくるように感じてしまう自分はだいぶヒネくれているなと、寒空に向かって少し口角が上がった。
あと数度気温が下がったら雪でも降りそうな空を見て都心よりも空が広いことに気がついた。
「下町っぽいな」と思い周囲を見渡した。イトーヨーカドーにロイヤルホストなどが目に飛び込んでくる。これもまた最近の下町っぽさだ。駅周辺にはちょっとしたタワーマンションが出来たりして住みやすさをアピールしてきている。
自分はこういった街が好きだ。
ちょっと出来過ぎた駅前から細い路地に入ると昔ながらの街並みと町工場があるような。THE 東京下町ってなところがとにかく大好物だ。
案の定この曳舟もちょっと駅から離れた路地にはまだまだ昭和な街並みが残っていた。個人経営の定食屋に飲み屋。これだよ。これ。この感じが俺の中での住みやすい街のイメージだ。なんだか何処か懐かしく落ち着く。
アノ角を曲がったらお婆ちゃんの家につきそうな感じがDNAレベルでホッとする。
自分の母方の実家が江東区で駄菓子屋を営んでいた。だから物心ついたくらいからこういった雑多な感じの街並みがDNAに染み付いてしまっているのだと最近再確認している。
住みやすい街というのは、まさに人それぞれ百人いれば百通り。駅の数だけ街がある。街が人を住みやすくするのか、人が街を住みやすくするのか?全くもって答えなど出ないことだと思うが、自分はこういった街並みを見て歩くことが好きだ。
星雲社より発刊。