町街さがし
Vol.03「三ノ輪」
都電荒川線の終着駅三ノ輪橋が街の玄関口として有名すぎる、歴史を振り返るとどこか悲しくちょっとダークなイメージが僕個人としてあった街だが一本大通りに出るとなんてことはない普通な表情をしていた。
どうイメージがちょっとダークだったかというと三ノ輪交差点近くの浄閑寺に吉原で一生を終えた遊女たちを弔う新吉原總霊塔があり、その向かいには文豪の永井荷風の詩碑と筆塚がある。そしてそれらにまつわるエピソードや荷風の作品を読んだりしていたからだろう。
そういった解釈からのイメージで三ノ輪の街を勝手にちょっとダークと決めつけてしまっていた。
だが一歩街へ足を運べば何てことはないTHE最近の下町がそこには広がっていた。
お持ち帰り専用の焼き鳥屋さんが不意に大通り沿いに姿を現した。あの角を曲がったらおばあちゃんの家まであと少しといった雰囲気と匂いのする懐かしい店構えだ。そういえばよく夕飯の買い物の手伝いで荷物持ちをして、お惣菜屋さんの焼き鳥を一本お駄賃として買ってもらっていたなー。なんて脳の片隅の片隅にこびり付いていたような記憶が匂いを通して鼻の奥の脳みそを刺激して思い出す。
DNAに染み付いてしまっている何かを思い出してしまう街がまたここにもあった。
そんなことを思いながら少し歩くとこれまたインパクトと一癖ありそうな店が目についた。「ある、ある。こういう何屋さんかわからない気になっちゃう店」とニヤリとして声にならない声で呟く。
そのまま角を曲がり裏路地へと足を伸ばしてみる。こういった最近の下町特有の歩道が全然無い狭い道を抜け道としてビュンビュンと車が抜けていく。ふと、最近の下町の子供は何処で自転車の練習とかするのだろうか?とどうでも良いことを考えながら街並みを見上げた。
「あ、煙突だ」
本来なら高くそびえ立つであろう煙突が狭苦しそうにマンションを背にして立っていた。
これもまた最近の下町感があってなんだか落ち着く。情緒というか近代化の波に飲まれても今尚健在してくれているその姿には思わず見惚れてしまう。銭湯のある街って良いよなー。疲れた時にはなぜか大きな浴場を欲するし、まさに「極楽、極楽」ってなもんだしな。
その銭湯を抜け少し歩いていくと梅の花が咲いている会社エントランスに出くわした。暦の上ではもう春だなと感じながら歩く。すると大きな通りがまた見えてきた。
やはり街ってモノは生き物だ。新旧織り交ざり色々な表情を見せてくれる。昨日よりも今日、今日よりも明日ってな具合に良い街に良い表情になっていくんだと思う。そして最初に感じていた三ノ輪という街に対するちょっとダークなイメージはすっかりとなくなっていた。
星雲社より発刊。