町街さがし
Vol.05「豊洲」
人は、ちょっと人生に疲れたりすると海を見たくなる。多分。
少なからず自分はそんなタイプの人間だ。とりあえず都心ですぐに海が見えるであろう街に向かった。自分の事務所がある場所から豊洲へは地下鉄で数駅。すぐに着き駅前に降り立った。
「こんな街並みだったけ?」が第一印象だ。全く海感がない。江戸っ子が愛した東京湾の微塵も感じられない駅前がそこには広がっていた。
築地市場移転後の豊洲だもんな、そりゃこんなに違う感じかもなと思う。
でもここら付近は海へ向けてひらけているはずだ。iPhoneを取り出して地図を見るのも癪なのでとりあえず勘を頼りにあてどもなく歩き進めることにした。
ワンブロックほど歩くとド渋な都営住宅が見えてきた。
なんだかこの都営住宅を見てホッとしている自分がいた。海の気配を感じに降り立った豊洲駅前には人間の生活感がなく高いビルが建って近代的になりすぎていたから、そこからワンブロックほど行ったら人間のこれでもかってくらいな生活を感じられるエリアに出くわしたから少し安堵した。
ちょっとした広場のベンチに腰をおろし周りを見渡した。都営住宅は全てが同じに見えるが全てがまた全然別の表情をしていた。そこには確かに人の気配がして生きている。ふと、小学生の時に同じ学区の市営住宅に住んでいる友人を羨ましく思っていた記憶が蘇ってきた。
それは同じ屋根の下に学年も違う仲の良い兄弟のような友人が住んでいるということに対する憧れだった。彼らは学校の通学はもちろん休み時間でもよそ者を寄せ付けないようなコミュニティを形成していた。とにかく当時はその輪がキラキラしていてとにかく羨ましく見えた。
きっと今でもそのようなコミュニティは規模は違うがこの都営住宅にもあるのだろうと想像し、またちょっと羨ましく思えてきた。
近隣との付き合いも希薄になり核家族化が進んできている昨今、江戸の長屋文化までは行かないがこういった団地では今なお多少なり近隣の付き合いはあるのであろうから。
そんなことを考えながら歩き出したが川に出くわした。これはどうやら海とは逆方向に駅から歩いてきてしまったなー。と橋の上でUターンをして駅の向こうへと潮風のニオイがするであろう方へと歩き出した。
星雲社より発刊。