町街さがし
Vol.02「根津」
年も明けまだ都心の空気が凛と澄んでいる天気の良い日。不意に行ったことの無い神社を訪れて見たくなった。
まぁ俗に言う初詣ってやつだ。どうせならちょっと情緒のある街にある神社がいい。
そして根津駅に降り立った。駅を出てすぐの通りに”文豪の街”と書かれたプレートを街灯の下に見つけた。良い響きだ。森鴎外、夏目漱石、川端康成など名だたる小説家が住んでいて、また舞台にもなっている街。物書きの端くれ中の端切れの自分でもちょっと背筋が伸びる感じがした。
そしてすぐに見えた根津神社入り口を入っていく。神社に近づくにつれその凛とした空気感は高まっていく。神社のある街。これまた魅力的だ。
今年で95歳になるうちの婆さんが「神社、お寺さんのある街は土地がしっかりとしているから住むならそういった街が良い」と言っていたのを思い出した。本当にそうだよなと根津神社の鳥居を見上げた。絵に描いたような抜ける青空がそこには広がっていた。
一通り初詣をすませ散歩というか散策をするかのように境内を見て歩く。細かく、丁寧な宮大工さんの仕事に惚れ惚れしながら知ったような顔をして無言で頷く。
なんとなくこういったものが良いなと思える歳になってきた。粋とかわびさびとかそういった一言じゃ言い表せない類のものだ。周りを見ると海外の人も多く良いカメラで写真を撮りまくっている。不意に自分はなんだか「これって粋じゃないなー」と思い、今までパシャパシャとiPhoneで撮影していたことが少し恥ずかしくなり、そっとiPhoneを普段入れているズボンのポケットではなくジャケットのポケットに入れ、そこからは目に焼き付けるように空気感を味わうように境内を見てまわった。
千本鳥居と言ったら京都の伏見稲荷大社が有名だがここ根津神社にも負けず劣らず立派な千本鳥居があり、その出で立ちは厳かでいて可憐。都心でありながら小旅行に来たかのような錯覚にさえなる。
深呼吸をし、高く聳える木々を見ながら境内を一周して来たら、池の辺りで近隣の大学生と思わしき女性が読書をしていた。視界にその風景が入ってきて自分は単純に「いいな」と思った。本を読む場所は何処でも良い自由だ。だが読む場所によって印象も違うし、内容も少し違って解釈できそうだ。流石は文豪の街。と都合の良い解釈をして池の鯉を見るふりをしてその大学生を見守った。
少ししたらその娘の彼氏であろう男性が近づいて来て声をかけた「メールしたのに見てないでしょ!でもやっぱりここにいた!」
その娘は本を閉じ「ごめん」と言うと立ち上がり手を繋いで境内から出ていった。
星雲社より発刊。