町街さがし
Vol.9「湯島」
自分は下町が好きだ。こればかりはハッキリと断言できる。昭和生まれがそうさせるのか、懐かしい雰囲気が落ち着かせてくれる。気がつくと今日も下町界隈をフラフラとしていた。
とりあえず地下鉄湯島駅を確認し、本郷三丁目方面へと坂を上っていくことにした。
坂の中腹には湯島天満宮に上がれる階段がある。だがそこからは入らずに坂の上にある大鳥居を目指すことに。
少し坂道を上がると鋭角に曲がる感じで大鳥居が見えてくる。立派だ、昔に見たときよりも立派に感じる。こんな立派な鳥居は単純にカッコイイ。男ならきっとそう思うはずだ。そして鳥居をくぐり湯島天満宮への入口へと進む。
鳥居をくぐってすぐのところに気になるお店を発見した。千社札や招木看板などのお店だ、場所も場所だしかなり由緒ある面持ちである。ちょっとiPhoneで調べてみたら筆耕依頼も受けていて江戸文字での名入れやロゴ作成などもしているようだ。昔ながらの職業が現代にもフィットさせて営んでいる姿が伺えた。
ようやく湯島天満宮正面へときた。これまた立派な鳥居と奥に見える輪っかは何だろう?これまたすぐさまiPhoneさまのお力を借りて検索検索。気付いたら、わからないことはすぐ検索すれば良いってなっている退化しきった自分の脳みそに嫌気がさし、すぐさまiPhoneをポケットにしまった。とりあえず絶対近くに何をやっているのか書いてあるはずだと思い、先ずは手水舎に手を洗いに行った。ここもコロナウィルスの感染に伴い柄杓が下げられていた。作法に伴った手洗いが出来ないことを少し残念に思い、目の前に見えてきた輪っかのことが書かれてある物を何食わぬ顔でチェックをした。
ふむふむ。芽の輪くぐりというのか、詳しくいうと夏越大祓式か。って何のことだ?全く知らない催し物だ。もっと詳しく読んでいくと何やら年に2回ある日本古来の神事で日常の暮らしの中で、知らず知らずに犯してしまった諸々の罪や穢れを除くため祓い清め、茅で作った輪をくぐり無病息災を祈るというものらしい。穢れ尽くしている自分にはちょうど良いと思い、くぐり方の説明を読んでからその通りにくぐってみた。
ちょっと煩悩があれされたかな?と思いつつお参りも済ませ、来た方とは違う出口へ。
本殿への外廊下が綺麗な緩やかなアーチ形状なので目を奪われ、出口付近の庭は手入れが行き届いていて凄く気分の良い参拝をさせてもらえた。
湯島天満宮を後にして上って来た坂道の逆側を下って湯島ハイタウンをすぎると「旧岩崎邸庭園」の標識が目に入った。看板でなくて標識、これは気になる。とりあえず標識の矢印の方の路地に向かってみた。
そこは御徒町から数ブロック湯島寄りな界隈。角を曲がるといきなりラブホが見えて来た。歴史的な庭園に向かう途中にラブホか。これも現代社会の歴史に埋もれたアレか。と何か知ったような感じで深く頷き「旧岩崎邸庭園」を目指した。その左手には先ほどから少し気になっていた湯島ハイタウンの裏側がこれでもかってな存在感で空に向かって建っていて圧倒させられた。
ほんの数十メートル進むと旧岩崎邸庭園の入り口があった。こんな下町のちょっと奥にこれだけの規模な門構えの場所があったとは、さすがは都立庭園で国の重要文化財なことだけはある。この門の外からでも厳かなオーラをプンプンと感じる。
門から庭園入口を目指して緩やかな坂をあがっていく。木々がこれまたマイナスイオン全快で気持ちが良い。普段滅多にしない深呼吸を足を止めてしている自分に驚き、カーブの先にようやくこの旧岩崎邸庭園の入り口が見えてきてこの庭園という重要文化財の凄さを少し感じて来た。
大人400円のチケットを購入して、いざ旧岩崎邸へ。
壮大だ…。これが個人邸だったとはもう入る前から圧巻である。
そうそうこの旧岩崎邸とはざっくりというと三菱財閥の創業者一族の邸宅で、GHQ以降紆余曲折あり、途中先ほどの湯島ハイタワーの建設などもあり敷地が1/3になりはしたが都立公園としての管理になったらしい。
やはり土足禁止か。入り口で警備員さんからビニール袋を受け取りそれに自分のスニーカーを入れ手持ちで邸宅内にあがっていく。ちょっとムードに欠けるなー。次来る時はスニーカーが入るカバンを持って来て手ぶらで邸宅内は過ごしたいと強く思う。
玄関を上がり振り返るともう素敵な細工に目を奪われます。そして当たり前なのですが「お手に触れないでください」状態です。
邸宅内はもう右を見ても左を見ても圧倒の連続。これほどまでに自分がこの旧岩崎邸に感動するなんて思っていなかったので、心の準備が追いつかないまま各部屋各部屋、ドアノブや窓の鍵1つとっても感動の連続。やはり歳をとってくるとこういった歴史的建造物が好きになっていくんですかね。自分の中の趣味趣向が若い時と変わって来ていることにもビックリしながら、そしてここで生活をしていた三菱財閥怒涛の時代なんかを想像しながら梅雨の貴重な晴れ間に時折吹く心地良い風に思いを馳せて見ました。
そして洋館から和館へと奥の廊下で繋がっています。なんというのかちょっとしたテーマパークの境界線のような感じで、居住空間にこのような境目があることに違和感を感じさせられ、和館から日本庭園を挟んで洋館を眺めるとなんとも不思議な文明開化の景色が一見できました。
先ほどまでの洋館が動ならこちらの和館は静なのでは?と感じ、この敷地内で上手いこと共存し合っているんだなと、無理やり自分を納得させてみたりして旧岩崎庭園の庭へと入り口で渡された靴入れのビニールからガザゴソとスニーカーを取り出し縁側に腰掛け靴べらを使ってスニーカーを履き庭先へと出た。
庭中央くらいから邸宅を振り返って見てみた。本当に上手いこと日本庭園の木々で洋館と和館の間に邪魔にならない目隠しとでも言うのか、程よくお互いの景観を崩さず、そしてお互いの存在を隠して引き立たせているようにも見えた。
庭奥にあるベンチに腰を下ろし、しばらくこの景色に見とれていた。都内にこんな敷地とこんな施設があったとは、と驚きを隠せない自分と街歩きでの着眼点の基準が自分の中で大きく変わって来ていることに気付かされ、本当に住みたい町、そして本当に住みやすい街というモノの概念が今までは根本的に違うベクトルを向いていたことを痛感し始めていた。
星雲社より発刊。